| 「いたぞ、いたぞ」
大勢の村人の集まる前で、逃げ場を失った子づれキツネが、きょとんとしています。 じつはきょうは、名主のいいつけで、村をあげてのキツネ狩りの日だったのです。
村人たちは声をはり上げ、鳴り物をならして、キツネのいそうな土器塚や、上原あたりの、やぶをかき分けて探し回り、ようやくキツネのすみかを見つけたのでした。
でも、その後村人たちは、誰一人としてこの親子キツネをつかまえようとはしません。
口に出さないまでも、みんな後のたたりを恐れているのでした。
村人たちは名主がいないのをさいわいに、そのまま帰ってしまおうとする者もいました。
「かわいそうだ、逃がしてしまおう」
と言うことになって、今度は追いはらうまねをしましたが、親ギツネは子ギツネをかばって立ちすくむばかりで、逃げようともしません。
その内に、村人たちは一人去り、二人去りして、みんな円泉寺へ引き上げてしまいました。名主がようすを見に来た時には、もう親子ギツネも村人も、だれもいませんでした。
でもその日から、太子堂村では、キツネにばかされたり、田畑を荒らされることがなくなったのです。
そればかりか、暗い夜にはどこからともなく、親子キツネと子キツネがちょうちんをもってあらわれ、太子堂橋を渡ろうとする村人の足もとを照らし、行く道をしばらく案内してくれた後、どこかへ消え去るのでした。
親子ギツネの親切は、この後いつまでも続きました。
「きっと、いつかのキツネたちが恩返しをしているにちがいない」
村人は、みなそう思いました。
こうして、太子堂の村は、親子のキツネに守られて、女や子供でも夜道を安心して歩けるようになり、しわわせな村になりました。
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